幸福の商社、不幸のデパート 〜僕が3億円の借金地獄で見た景色〜 水野 俊哉 (著)

事業再生・倒産回避コンサルティング S.K.I.ビジネスパートナーズ お問合せメールフォーム

参考図書

幸福の商社、不幸のデパート

僕が3億円の借金地獄で見た景色

 

水野 俊哉 著

出版社: 大和書房
ISBN:9784479793328
サイズ:4-6・224ページ
発行日:2011/10/26
価格:本体1,300円+税

お買い求めは下記のネット書店をご利用ください。

# amazon.co.jp 紀伊国屋 セブンネットショッピング 楽天ブックス

はじめに

 放埓な勢いのままに駆け抜けた20代の半ばからの10年間で、僕は天国から地獄までを経験した。
  20代半ば過ぎで独立してすぐに年収は目標だった1000万円を超え、30代の前半は可処分所得が3000万円ほどになっていた。
  ところがIPO(新規上場)を目指した事業でつまずき、億単位の負債を抱えて会社を追放されることになり、30代の半ばでそれまで築き上げてきた全てを失った。部下や友人だったはずの人たちはもとより、社会的信用も、夢やプライドも、愛する人さえ、どこかへ消えてしまった。
  負債総額は3億円を超えた。通常、短期の借り入れの返済期間は5年程度だから単純計算でも月々の返済額は約500万円にもなっていた。
  いま、サラ金や家のローンで苦しんでいる方もいるかもしれないが、毎月500万円の返済額になっている人は滅多にいないだろう。
  そんな僕でも現在はビジネス書の作家として執筆やセミナー、趣味のサッカーや旅行などで充実した生活をしているのだから人生って不思議なものだ。
  億の借金を背負うとは、はたしてどういうことなのか。そして、どうすればそんな地獄から立ち上がることができるのか。
  本書では、これまで書いてこなかった、僕がかつてやっていた事業や借金が膨れ上がっていく過程、そして借金地獄の中でいかにもがき、再起したかについて記してみたいと思う。
  もちろん借金とは無縁の方でも、仕事や人生に役立つような内容になっている。
  なお、事業や債務整理の顛末については、当事者によってそれぞれ違った意見や言い分があるかもしれない。あくまでも僕の主観の範囲で書いているということを断っておく。
目次
■Chapter 1 欲望とカネの世界
◎借金の泥沼で見た光景
・現実を認められない無気力状態
・いったいどこで間違ったのか
◎人生の分岐点はどこにあるのか?
・転落と再起の本当の理由
・何が「バタフライ・エフェクト」を起こしたのか
◎金で買えないものはない
・2000人規模の大イベント
・「仕出し屋」が揃えた女子大生軍団
・VIPフロアへの秘密の階段
・金持ちと美女の饗宴
◎成功すれば億万長者、失敗すれば敗残者
・IPOにすべてを賭ける
・エレベーターの止まらないフロア
・なぜ「勝ち組」の誰もが消えたのか

■Chapter 2 こうしてお金の流れは止まる
◎天啓のごとく降りてきた「完璧なアイデア」
・嵐の前の静けさ
・100年に1度のチャンス
・アルコールが生んだ事業プラン
・金に糸目はつけない
◎私財を投じてでもチャンスに賭ける
・「下請け」から脱出するために
・膨れあがるスタッフ
・片っ端から金を借りる
◎セミリタイアにはいくら必要か?
・億の出資があっさり決まる
・金の地下水脈の水先案内人
・闇紳士の魅惑的な言葉
◎創業メンバーは全員切れ
・従業員が20人いれば犯罪者が混じっている
・社長マニアの美女たち
・続々とかかるM&Aの声
・1日100億動かしている会社です
◎転落はある日、突然はじまる
・4人のトップ会議
・クーデターの勃発
・修羅場

■Chapter 3 脱出不能の借金の穴
◎どうすれば脱出できるのか?
・金がないのは首がないのと同じ
・薬物中毒のような借金の苦しみ
・不正会計、架空取引、キックバック
・ブラックな人脈
・金は「足りない」より「ない」ほうがいい
・わかったこと、失ったもの
◎金があったら幸せになれるか?
・鳴る携帯、鳴らない携帯
・自分は「世界の中心」にいるのか
・幸福の経済学
◎借金を借金で返すか、事業をつぶすか?
・ホラ吹き社長
・借金の穴は無限に掘れる

■Chapter 4 地獄で知った「お金のからくり」
◎世の殺人事件はほとんどが女か金に起因する
・貸付額と怒りの大きさは反比例する
・成功と失敗を分かつ基準とは?
・ギャンブルで100%勝てる方法
◎カモになったら嬲り殺し
・そこにいるのは人か木か
・取り立て屋との終わりなき攻防
◎返せなければ返さなくていいのか?
・たったの3億しかないじゃないの
・底抜け脱線ゲーム

・銀行必勝法と落とし穴
◎金に詰まったら死ぬしかないのか?
・返済をストップする
・絶望の底のさらにどん底
・銀行への電話
・ポンカス案件
・人生のドブさらい
◎金を払う順序を間違うな
・「金→モノ→人」か「人→モノ→金」か
・社長はなぜ孤独なのか
◎去っていった人たち
・恋人からの借金
・人生の勝ち負け
・砂糖に群がっていた蟻

■Chapter 5 幸福の商社、不幸のデパート
◎「『思考は現実化する』なんてバカバカしい」と思っていた
・名画のような光景
・借金も貯金も何もなしからの再スタート
・交通事故と宝くじの関係
・心を縛る鎖
・むさぼるように成功本を読む
・「お金」「時間」「健康」「人間関係」の管理
◎成功本の成功法則を全部やったらどうなるか?
・倒産した経営者ほどつぶしのきかない職業はない
・成功本通りのチャンスがやってきた!
・「最後の仕事」に失敗したら何になるか
◎「成功実験のモルモット」になる
・「紙に書くと実現する」は本当か
・自分は一度死んだ
◎過去を変えるたったひとつの方法
・時が変えたこと
・青いスーツ
・ベストセラーを書く方法はあるか
◎収入と能力は比例しない
・「フロー」を起こせる仕事をする
・給与の額は環境次第
◎この瞬間の選択が未来をつくる
・無限の選択肢
・もうひとりの自分
・起こったかもしれない未来
◎人生はいつからでもやり直せる
・体をつくり直せば心もついてくる
・恩人との再会
・いちばん大事なこと

あとがき
■Chapter 4 地獄で知った「お金のからくり」

 返せなければ返さなくていいのか?

●たったの3億しかないじゃないの

  川原愼一先生と、五反田の事務所でお会いして、僕の人生は一変した。
その日、応接室で白いテーブルの前に打ち破れた経営者である僕は座っていた。

ドアが開き、スーツをバシっと着こなした長身の川原慎一先生がにこにことした表情で入ってきた。
簡単な名刺交換の後、僕は用意してきた債務の一覧表を差し出し、先生の質問に答えようと身構えた。
「では、ちょっと拝見しましょう」
先生は胸ポケットから黒縁の眼鏡を取り出し、きれいな長い指で数字をなぞり、ほどなく顔を上げるとこう言った。
「水野さん、あなたもまだまだ小物だね。たったの3億しかないじゃないの」
いったいなんと言われるのかとすっかり縮こまっていた僕の心を見透かすように、 場にそぐわない陽気な笑顔を見せてくれた。
たった3億って……。
意味がわからずポカンとしている僕に川原先生は言った。
「いやね、うちに相談に来る経営者って小さくても10億円、上は100億クラスだから。あなたよかったねー、こんな小さい額で」

僕にとって、3億の負債は人生の一大事だった。どうしようもないのに、誰にも相談できず、ひとりで抱え込んで進退窮まっていた。
しかし、川原先生に「あなたの負債なんて、自分で思っているほどたいしたものじゃないよ」と指摘されて、我に返る思いがした。「首がないのと同じ」でゾンビのように生きていた僕は、このときはじめて再生へのかすかな希望を感じた。

 

●底抜け脱線ゲーム

「じつはは私もこう見えてベンチャー企業をやっていてね。20億円の負債を抱えてたの」
「で、いったいどうしたんですか?」
「一人ひとり電話したよ。返せないって」
「返せないって。それじゃあ、済まないんじゃないですか?」
「だってしょうがないじゃない。返したくても返せないんだからさぁ」
それから川原先生はしばらく、そのときの顛末について語ってくれた。
目から鱗というか、これまで培ってきた価値観をくつがえすような話だった。

「水野さん、いったん金融機関への支払いはストップして、リスケの交渉をしましょう」
「そんなことをしたら大変なことになりますよ。第一、僕を信じて貸してくれた金融機関の担当者に顔合わせできません」
リスケとはリスケジュール、返済条件の変更のことである。簡単に言うと、こちらが払える金額だけを払うよう金融機関と交渉するのだ。
僕はそんなことが可能だとは思えなかったし、リスケが可能だとして実行しようなどとは思いも寄らなかった。なぜなら金融機関からの信用を失うと以後、資金調達ができなくなる可能性が高いからだ。
「水野さん……。ひとつ言っておくけど、金融機関はあなたのことを考えて資金を貸しつけてるわけじゃない。ビジネスなんだよ」
僕はまだ諦めがつかなかった。なんとか新しい事業の資金を集めてその利益で3億の負債を全て返済したかった。
「先生、なんとか新しく資金を調達する方法はないでしょうか?」
「今、資金を注入しても、底が抜けたバケツに水を注ぐようなものじゃない。底抜け脱線ゲームじゃないんだから、いったん諦めなさい。事業再生には外科的再生と内科的再生があるけど、とりあえず止血しないと、そのどちらも無理だよ」
川原先生が諭すように言って、僕が納得するまで時間をかけて話してくれた

 

水野俊哉氏との出会いは今でも鮮明に思い出せる。

面談室で待っていたその人は、危機的な局面に立ち向かう 小動物のような印象だった。相談者の多くが現状に恐れを 抱いているものだが、彼は情熱的でもあった。

面談後、私はベンチャービジネスの特性(IPO)と彼のパーソナリティーから、可能な限り資金を調達してチャレンジするプランを示し、同時に 失敗しても再生へのレールを勘案していた。

彼はチャレンジャーとして一敗地にまみれたが、その才能と努力 で作家として成功していった。

この本はまだ若い水野氏がビジネス社会に翻弄されながも懸命に生き抜き、再生する物語である。

第4章から私が実名で登場させていただいているが、恐縮の至りである。

S.K.I.ビジネスパートナーズ代表取締役
川原 愼一