弊社への取材部分を一部抜粋してご紹介します。
『金融円滑化法に頼らない事業再生への道』(神山典士http://www.the-bazaar.net/index.htm)
「金融円滑化法が再々延長になっても、これを申請した企業には『実抜計画』ないしは『合実計画』の提出が求められます。それがしっかりとできていれば、指針の分類においても「その3」に入れられることは避けられるはずです」
そう語ったのは、都内で事業再生コンサルタントとして活躍する川原慎一(SKIビジネスパートナーズ)だった。
ジツバツケイカクとかゴウジツケイカクといった聞き慣れない名前が出たが、それらはいったいどんなものなのだろうか。川原が続ける。
「正式名称は『実現可能で抜本的な事業再建計画』であり、『合理的に実現可能な事業再建計画』です。どちらも金融機関が融資先企業に対して要求するものですが、その違いは、『実抜計画』は概ね3年以内に再建が可能な比較的大きな規模の中小企業向け。『合実計画』は、より零細企業向けで、再建に5年程度かかる見込みの企業を対象としています」
(SKIでは、実際に『合実計画』をつくり、金融機関にリスケジュールを納得させている実例として、以下の顧問先の企業を紹介しました)
紹介されて引き合わされたのは、都内で印刷会社を営む横石哲男さんだった。
40代の青年社長である横石さんは、資本金1000万円、社員35人を抱える会社を父親から継承した二代目経営者。経営を引き継いだのは、職人気質の父親に経営者としての資質がまるでなく、景気に合わせて常に金融機関からお金を借りる自転車操業をしていたことが理由だった。
「父の経営では、わが社は私たち親子も社員も、金融機関への金利を支払うために働いているようなものです。抜本的な再建計画を教えていただけませんか」
いまから約4年前、横石さんは川原の事務所を訊ねてこう言って指南を乞うた。それまでは事業再生に関して全く知識はなく、父のもとを訊ねてくる金融機関の担当者の姿を見て「恐ろしいもの」としか認識していなかったという。
ところが―――。
今回話しを聞いてみると、そこに現れたのは金融機関交渉に関してすっかりと自信をつけた、ベテラン経営者の姿だった。横石さんが言う。
「私の場合は、半年に一度全金融機関に対して経営計画を出します。それが認められると、各行への債務の年間返済額もわが社が決めますし、金利が高い金融機関に対しては『金利を下げてください』というお願いもします。最近もそのお願いをして低金利が認められました。時には売上があがって手元に現金が残ることもありますが、わが社は定期的に設備投資をしなければならないので、これを返済原資にはしません。金融機関に対しては全てガラス張りでキャッシュフロー表も見せていますから、手元に現金があることはわかっていますが、金融機関もこれを返せとは言ってこない。つまり金融機関も返済ありきではなく、営業利益が出て、金利が支払えて、雇用が守れることを第一に考えてくれているのです」
ちなみに横石さんの企業は、川原の手によるコンサルティングを受けてから、ずっと返済条件の変更を行ってきた。つまり、融資を受けている全行に対して、一定割合で元利返済額を減らしている。例えば5割返済というルールを独自に決めた場合、全行に対して「約定で決められた返済額の5割」しか返さない。これを「プロラタ型返済」と呼ぶ。
それでいて、全金融機関ともに金利のアップは言ってきていないし、ある金融機関は「金利の減免」すら認めた。また、そうやって4年間しっかりとした関係を築いたことで、メインの金融機関は「そろそろ新規融資も行いましょうか」と言ってきている。なぜこんな交渉が可能なのだろうか。川原が言う。
「横石社長はこの4年間事業再生の勉強に励んで、ずっと自分の手で経営計画を書いています。そこがポイントです。金融機関用に、コンサルタントに書かせたり、場合によっては金融機関内の稟議を通すために銀行員が書いたりした計画書は、作文となってしまって粗が見破られます。横石社長のように、自分で書ける経営能力が必要なのです」
横石さんが提出する書類は以下の通り。
「経営改善計画書」「資金繰り表」「前期の反省総括と、今期に向けた経営者のビジョン」「営業報告書」「各行別プロラタ返済計画表」「決算書」
(中略)
横石さんのケースでは、プロラタ型の返済の割合はどう決めているのだろうか。川原が言う。
「プロラタ型返済の基本は、決算書で使う「減価償却費」の範囲内で返済総額を決めるということです。減価償却とは『設備の費用化』です。例えば1億円で購入した機械を10年かけて1000万円ずつ償却していくわけですから、その分は企業内に現金が保留できることになります。その1000万円を使って返済していけば、無理な返済にはなりません」
ちなみに横石さんの会社では、債務総額は約7億円。これを現在は年間約3000万円を上限にして、6行に返済している。約定の返済額と比べれば、各行ともに約20%の返済額だ。けれど全行に対して情報開示して、同率で返済しているからクレームはない。むしろ金利を見比べて、高率の金融機関に対して「他行と同じ程度にしてください」とお願いできるスタンスになる。
川原が続ける。
「横石さんが出している計画書こそが、今回中小企業に課せられた『実抜計画』『合実計画』の見本です。経営者がこれをつくれれば、金融機関から『市場からの退場』を言われることはありません。逆にこれがつくれないと大変なことになる。金融円滑化法が延長されても、そこが企業経営のポイントであることは変わりありません」
文中には、これ以外も実抜計画、合実計画を作成して苦境を乗り切っている中小企業の実例が紹介されています。
ぜひ、雑誌を手にして、経営の参考にしてください。