川原 愼一著
S.K.I.ビジネスパートナーズ代表取締役
→ プロフィール
出版社:東洋経済新報社
ISBN:978-4-492-60207-2
旧ISBN:4-492-60207-0
サイズ:四六判 並製:208頁?C3034
発行日:2011年3月3日
価格:¥1,470(税込)
「先輩!住宅ローンで新築マンションを買いました!」
「そうか……。君の家計は『債務超過』じゃないか?」
「えっ!?」
「『賃借対照表』と『キャッシュフロー表』は大丈夫か?」
財務3表で見れば9割の家計が破綻している!?
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ビジネスは、よくスポーツにたとえられる。
名将と言われる監督が書いた戦いのための戦略本が、ビジネス書として売れるのはそのためだ。
スポーツでは、どんな競技でも練習は「守り」や「基本動作」から始まる。
なぜなら、守りにはセオリーがあるからだ。
野球でも、攻撃におけるサインに、「ヒットを打て」や「ホームランを打て」はない。
監督から出されるサインは、「ライト寄りに守れ」「次の一球は外せ」といった「守り」が中心となる。
セオリーを守れば、ゲームをつくる(=コントロールする)ことができる。相手とがっぷり四つに組めれば、時には「奇襲」もできる。勝つか負けるかは時の運だが、自分たちの実力をフルに発揮することができる。
つまり、よく守ること(=失敗に備えること)は、勝者への絶対条件なのだ。
ビジネスでも然り。
最近では、「リスクマネジメント」は当然のこととして、「撤退マネジメント」が盛んに言われている。
大手チェーン店でも、新規出店の際には「この状況になったら撤退」がセオリーとして盛り込まれている。「失敗」の理由を把握して、早めの撤退ができれば「チャレンジャー」として生き残れる。
失敗にうろたえてしまえば、永遠なる「負け組」に落ちていくしかない。
よく守るとは、自分(会社)自身や周囲の状況を冷静に客観的に見ることでもある。
長距離打者ばかりを並べ、ホームランが出る確率に頼っていたら勝ち目はない。
まずは守りを鍛えて失点(=失敗)を未然に防ぐこと。自分の長所短所をしっかりと把握することだ。
ビジネスもまた、日々起こる失敗を冷静に「事実」として受け止め、そこからのリカバリーを考えること。あるいは、失敗を先取りしてリスクヘッジを行い、常に「次の一手」を用意しておくこと。失敗の状況にうろたえずに、失敗の本質を知ってその状況からの次なる「展開」を探ることから、失敗からの脱出の光が見えてくる。
失敗からの脱出にはセオリーがある。それを知った者だけが、このデフレ時代を生き抜くことができる。真の勝者になれる。
だからこそ、「失敗こそ成功の母なり」だ。
※
本書は、事業再生コンサルタントとして約10年間、多くのビジネスマンや中小企業の事業主の皆様の失敗からのリカバリーをサポートしてきた私の経験をもとに記しました。
「長引く不況」というよりも、わが国にはすっかりデフレ経済が定着してしまいました。
挑戦がしにくい時代、チャレンジャーが育たない時代、不安が先立ち新たなプロジェクトを立ち上げにくい時代にあって、ビジネスと生活のリスクをどう把握し、どう失敗をリカバリーするべきなのか。漠然とした生活への不安やお金の心配から、失敗を恐れるあまり「無作為の失敗」にはまり込んでしまう人々を多数見ながら、私は考えました。
こんな時代だからこそ、人は成功本にすがろうとします。セミナーや勉強会が大盛況というのも、「手堅い成功術を身につけたい」という保身のあらわれです。
けれど、どんなに成功本を読もうがセミナーに参加しようが、成功者の真似をしても、そこに成功がないことは誰もが知っているはずです。
たとえば、登山の準備を考えてみても、これから山に挑もうとする人に対して、登頂の成功者が山頂の眺めの素晴らしさを語っても何の意味もありません。まずは万が一のときのリカバリーを可能にする装備を揃え、試練に耐える肉体を訓練することから始まります。
ビジネスや生活もまた然り。まずは失敗の本質を知って、守りを固めること。それは決して消極策ではありません。
私が数多くのビジネスの失敗をフォローしてきた中で、「もう少し早く相談にいらしていたら、違った結果が出たはずですね」と何度言わなければならなかったことか。もう一歩早くリスク管理ができていれば、もう少し失敗のリカバリーのセオリーを知っていたら、いち早く態勢を建て直し再チャレンジできたであろうケースは無数にあります。
「失敗」と「終わり」(=破綻、倒産)は別物。「失敗」と「敗者」も別物です。
失敗を成功への途中経過にすることができるなら、より多くの起業家やビジネスマンに明るい未来が待っている。失敗からの脱出は、決して精神論ではなく、具体的なアクションにかかっています。
かくいう私自身、30代で起業し、一時は業界の新興勢力とも言われながらついに「失敗」し、約2億円の債務を抱えた経験を持っています。
いまでも忘れません。ついにこれ以上資金繰りが続かないと覚悟して、骨がきしむような苦い思いをしたあの夜。ついてきてくれた社員や仲間たちを裏切らなければならなかったこと。自宅を銀行に差し出して、3人の子どもにも狭いアパート暮らしをさせなければならなかったこと。妻にも、連日のようにかかってくる債権者からの督促電話で辛い思いをさせた日々。会社を倒産させたあとで、債務を取り立てに来る金融機関と血の出るような交渉をしなければならなかったこと、等々。
それらはすべて、苦々しい失敗から起きたことでした。しかし私は、それらを克服したことで、それ以降、自分自身でも失敗のマネジメントを実践するようになりました。
失敗は決して「不幸」ではありません。ビジネスでも日常生活でも、どこにでも転がっている「当たり前」のものです。
しかし、その対処方法を間違えたり、その事実を認めるのが嫌だからといって放置していたりすると、本当の不幸がやってきます。
そうならないために。
さあ、本書を熟読して、失敗に備えてください。
本書が、ビジネスと生活のディフェンスに少しでもお役に立てれば幸いです。
第1章 財務3表を使って資産を総チェックする
――あなたも「隠れ債務超過者」!?
第2章 お金で失敗するタイプを徹底分析!
――失敗から始められる人、始められない人
第3章 もしお金で失敗してしまったら
――お金に「名前」と「優先順位」をつける
第4章 お金の借り方、完全マニュアル
――銀行交渉のコツと実態
第5章「投資」「私募債」「ジョイント・ベンチャー」を使いこなす
――友人、知人、親、兄弟から「借金」は禁物
第6章 本気でお金に困ったら
――サービサー、保証協会、裁判所との上手な付き合い方
第7章 失敗しない不動産の選び方、不動産投資のポイント
――新築マンションは買った瞬間、「債務超過」になる現実
いかがでしたか? あなたの身のまわりにある「大きなお金」に関する失敗の本質とそのリカバリーのノウハウ、考え方、行動の指針をご理解いただけたでしょうか。
本書は私にとって、はじめての出版になります。
やはり思い入れの強い一冊となりますから、すべての文章を書き終えたあとも、タイトルを考える段階になって、いろいろと悩みました。
そもそも今回の企画の出発点は、書店に溢れるビジネスや投資の成功本を見ながら、なぜ「失敗」と真摯に向き合うテーマのビジネス書が少ないのか。それが不思議だなと感じたことでした。
デフレ経済が定着してしまった今日、若者たちの思考・行動が守備的になり、チャレンジ精神が後退していると言われていますが、大人たちがディフェンスを語らず、失敗のリカバリーをサポートしなければ、若者たちは怖くて起業できないのではないかと感じていたのです。
──お金に関する失敗の本質を語る本を、日本銀行の近くにある出版社から出すのも何か因縁めいているな。
そんなことを考えながらあれこれとタイトル案を考えていたときに、「先輩!」というフレーズが浮かびました。
瞬間的に思い出したのは、自分自身の経済的な失敗体験と、そこからリカバリーしてこの道を歩み出した当初のことでした。
私自身の失敗は、約10年前、自分の事業の倒産を家族に告げたことから始まりました。
そこからは社員に対する説明、残った債務に関する金融機関や債権者との交渉、自宅を売って小さなアパートへの引っ越し等、さまざまな雑事に追われました。
けれど、ひとつずつ問題を解決していく中で、私は「事業再生」を手がける人脈を得、知識も身につけて、気がついてみると事業再生コンサルタントの道についていました。45歳を超えてからの再起に不安がなかったといえば嘘になりますが、自分と同じ境遇の方の相談に日夜対応しながら、生き方としてのこの生業を見つけたと思っています。
そのとき一番考えていたのは、「ベンチャーを志す後輩たちを助ける仕事がしたい」ということでした。
ベンチャーを志す若者たちは、おしなべて失敗することなど考えていません。ひたすら前を見て、猪突猛進を繰り返します。かつての私がそうでしたから、よくわかるのです。
けれど、どんなベンチャーにも失敗はある。ましてデフレ経済下にあって、つまずかない企業などありません。そんなとき、
「先輩! こんなときどうしたらいいんでしょう」
と訊ねてくる後輩たちに対して、「慌てることはないよ、こうすればいいんだ」と語れる先輩でありたい。失敗はけっして終わりではない、と諭せる大人でありたい。
それがこの仕事のスタートであり、自分自身でささやかながら感じていた「使命」でもありました。そのことを改めて思い出し、今回のタイトルを選んだという次第です。
あの日から数々の案件を手がけてきました。文字どおり、寝食を忘れてこの仕事に邁進してきた10年間でした。
その中でも忘れられないのは、2005年春に愛知県で起きた町工場の一家心中事件です。
父親の鉄工所を引き継いだ男性が、経営が傾いたことで親類や知人から借金を繰り返し、その返済のために消費者金融や闇金からも借金し、ついに2度目の不渡りを出してしまった。もっと早く家族に事情を打ち明けて、私たち事業再生コンサルタントに相談していれば、再生への道は必ずあったのに。自分自身で勉強して、再生への知識を身につけていれば自己破産も怖くなかったのに。
報道によれば、男性は見栄のあまり家族にも相談せず、自己破産も決断できず、ついにある夜、弟と共謀して公団住宅の一室で両親と妻、さらには幼い長男と長女をロープで絞殺。自分と弟は互いの首を包丁で切り合って自殺を図りました。ただ一人生き残ってしまった男性は、公判で「生きられる限り家族の冥福を祈りたい」と言葉少なに語ったと報じられました。
この事件を知ったとき、私は自分の生命が続くかぎり、できるかぎりこの仕事を続けていく覚悟をしました。働く人の背中を見続け、その向こうに家族や子どもたちの顔を思い浮かべながら日々仕事をすべき私にとって、お金の問題で親が子どもを殺さなければならない地獄図は一生頭から離れません。
お金だけを得て幸せだった人物を、私は知りません。
お金だけを目的とする人生も、私には信じられない。
その逆に、お金の失敗で人が人を殺し合うような、自ら生命を絶っていく人が毎年3万人超もいるような社会も、私には認めることができないのです。
問題は、日本では子どものころから、お金の教育がほとんどなされないことです。
「時は金なり」「金の切れ目が縁の切れ目」など、お金に関することわざはいくつもあります。けれど、ではその「お金」の本質はどんなものなのか、お金で失敗したときにどう考えてどんな行動をとればいいのか。具体的なノウハウは、誰も教えてくれなかったのです。
一般的に、人に相談することが憚れるお金の課題は、事業再生ばかりか個人の生活の再生とも表裏一体となっています。
その意味でこの本は、事業経営者だけでなく、むしろ一般のサラリーマンや主婦を念頭において、デフレ期にお金についてどう考えるべきか、そのリスクとリカバリーの知識とアクションを説くために書き上げたつもりです。
一方で、この10年間で事業再生を取り巻く環境も大きく変化しました。
90年代にはバブルの後始末や過剰債務問題が主要テーマでしたが、現在では再生しようとする企業の損益の課題がメインとなっています。つまりB/S(バランスシート)の再生からP/L(損益計算書)の再生へと軸足を移しているのです。
しかし変わらずにいるのが「人」の存在です。
中小企業の再生は、上場企業の再生事例とは異なったストーリーが必要となります。社長だけでなく家族や従業員も一体となってとりかかることが必要不可欠です。それができれば、たとえ結果的には廃業という選択になってとしても、人が再生できるいいシナリオはあるものです。
この10年を経て事業再生の技術やスキームはほぼ出揃った感があります。我々にいま必要なのは、再生プランを書くシナリオライターであり、ディレクター、プロデューサーとしての役割であろうと最近では思っています。
本書を上梓したことで、私はこれまで以上に誠心誠意、「事業再生」と「人生再生」に邁進していく覚悟です。
最後になりますが、本書を執筆できたのは、これまで苦楽を共にしてきた相談者・顧問先の皆様の貴重な体験と再生への熱い気持ちがあったればこそです。どんなに感謝してもしきれません。ありがとうございました。
また、S.K.Iビジネスパートナーズに籍を置く同志たちの存在やそのアドバイス、情報も、私にはかけがえのない財産です。これからも共に歩んでいきたいと思います。
お金で買えないものを手にする。それが私の人生の目的です。
家族にとっては決していい夫、父ではなかったかもしれませんが、ここまでこられたことを3人の女性に感謝して筆をおくことにします。母、姉、そして妻に。
ありがとうございました。
2011年2月吉日
川原 愼一