生き残れ!金融円滑化法終了後の中小企業の窮地とその対策【メールマガジンバックナンバー第11号】 |S.K.I.ビジネスパートナーズ

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 生き残れ!金融円滑化法終了後の中小企業の窮地とその対策 【Vol.11】

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▼バックナンバー【Vol.10】<中小企業生き残りの現実的な手段と、出口戦略>
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■■■  生き残れ!金融円滑化法終了後の中小企業の窮地とその対策
◆■                           【Vol.11】

■──────────────────── S.K.I.ビジネスパートナーズ

 まえがき:『金融円滑化法』の終了が来年3月に迫っています。
  同法を利用して元金返済を棚上げしている
  中小企業の借り入れ件数は延べ約300万件。
  同法終了後には倒産企業続出といった見方もありますが、
  果たしてどうなるのでしょう。
 
  日々、中小企業の再生再編の現場で活動している
  事業再生コンサルタント川原愼一とSKIのメンバーが、
  その現実と中小企業の生き残り作戦についてお伝えしていきます。

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┗■ 【第11号:<中小企業生き残りの現実的な手段と、出口戦略>
┃―ゾンビ企業ではなく再生企業、倒産予備群ではなく再生予備群!への道―
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 新政権の政策が徐々に見えてきました。
  安倍首相が主張する「金融の緩和・財政出動・経済成長戦略」の3本の矢と
  私達中小企業はどう関連するのでしょう。
  政府は金融円滑化法の再々延長はせずに、前号でご紹介したように中小企業
  への施策はほぼ発表し終えた様子です。
  そこから浮かび上がるのは「淘汰」の2文字のような気がしてなりません。
  もちろん、資本主義経済下では企業の淘汰は珍しいことではなく、必然であ
  り市場原理です。私たちはこの市場の動きに対して、具体的にどう準備して
  行動すればいいのでしょうか?
  今回のメルマガでは廃業からの再起についてお話していきます。
 
 
  1、空中分解ではなく落ち着いた廃業を
 
  印刷業の斉藤さん(仮名)は業暦30年。地域内の学校や役所などいわゆる固
  い相手との取引を中心に、大きな利益は出ないものの着実に事業を進めてき
  ました。大きな輪転機は使わずに、業界紙や週報のような地味な仕事が中心
  です。
  近年この業界には、インターネットの発達と、自社印刷の波が押し寄せまし
  た。外注していた印刷物を社内で作成してしまうお客様が多くなり、ここ10
  年で売り上げは半分に。
  勿論その間に何度もリストラを実行し、経費の削減に努めましたが、もう限
  界が来ています。68歳という年齢から見れば、斎藤さんは「廃業→引退」が
  妥当な選択肢ともとれます。ところが、今会社を清算しても全ての債務を返
  済できるわけではなく、また斎藤さん自身もこのまま引退するのも寂しいと
  感じていらっしゃいました。
  そんな時に私のところに相談にみえたのです。
  まず私は、今後も事業を継続していくと資金繰りがどうなっていくか、シュ
  ミレーションしてみました。現状では、売上の長期低落傾向は強まることは
  あっても、弱まることはないようです。
  このまま事業継続をしていくと、1年後にはいわゆるX-DAYを迎えてしまう。
  そういう結論が出ました。
  X-DAYとは破産手続きの開始日のこと。多くの債権者に債務が履行できず、
  会社の行く末を裁判所に任せて、債務整理していくことを意味しています。
  いわゆるハードランディングです。もちろん、斉藤さんご自身の再起もなか
  なか難しくなります。例えて言うなら<空中分解>のような状態です。
  私は斎藤さんとの数度の面談の中で、残念ながら現業の廃業はやむを得ない
  ことを説明し、ご自身にも納得していただきました。
  残酷なようですが、現実を直視して最善を尽くすのが事業再生の鉄則です。
  夢物語を語ることが事業再生ではありません。綺麗ごとではすまないのです。
  しかし<空中分解>ではなく、できれば法律の手を借りずに穏やかな着地<
  ソフトランディング>を目指していくこと。斉藤さんの次の仕事は、この道
  を模索していくことだと二人で確認しました。
 
 
  2、廃業に際しても人・物・金の黄金則を忘れずに
 
  そしていつものように資金繰りを精査していきました。斉藤さんの実直な性
  格を表すように、決算書には粉飾の「ふ」の字もなく、コンサルタントとし
  ては内容の把握が容易でした。
  私が着目したのは、人(人件費)と物(買い掛け)を100%清算できる可
  能性があること。これができれば、従業員への責任は果たせ、長く取引のあ
  った買い掛け先にも迷惑を掛けずに済むストーリーが描けます。
  そして<空中分解>とは違って、お得意先に次の発注先を紹介することも可
  能です。
  けれど、現状のキャッシュフローでは、金(金融)の債務までは清算はでき
  ない状況だということもわかりました。
  こうして斎藤さんには、人(人件費)・物(買い掛け)・金(金融債務)の
  債務に対する姿勢を自身でも明確にしていただき、準備を進めました。
 
  まずは金融機関に対する返済ストップからスタートです。
  これは事業主の方が最も恐れる場面ですが、怖がる必要はありません。(こ
  れについてはメルマガ6号を参考にしてください。)
  私と斉藤さんは返済ストップの実務を実行しました。

   ●メルマガ第6号バックナンバー
     → https://www.skibp.co.jp/merumaga/bn_06.html
 

 3、行動計画が重要
 
  次に廃業に向けてのスケジュールの作成です。これからやるべき実務(従業
  員、お客様、買い掛け先、金融機関、お客様の引継ぎ先対応など)を一覧表
  にまとめました。それぞれに対する説明の段取りと、おおよその日取りなど
  を決めていったのです。
  ここでポイントになったのは引き継ぎ先です。約40社の取引先にどこの同業
  者を紹介するか?責任感の強い斎藤さんは、廃業しますだけでは、長年のお
  客様に申し訳ない限りとお考えでした。
  引継先の候補はすぐ決まりました。長年お互いの仕事のサポーターをしてき
  たA社です。この会社の社長佐々木さん(仮名)は、気の置けない仲間でした
  し、なんでも相談に乗れる相手です。まず二人で実情を話し合ってもらい、
  その後に私が打ち合わせに加わりました。可能な限りスムーズに計画を運ぶ
  方法を模索しました。
 
  さあ行動開始です。
  A社に事業を継承してもらうことを基本に、従業員への説明をいつやるか、
  仕入先にはいつ話しをするかなど、スケジュールを具体的に詰めていきまし
  た。
  気丈な斉藤さんは、つらい顔ひとつ見せません。言葉少なで、移動する車中
  も愚痴ひとつこぼさず、毅然とした姿勢を崩しませんでした。
  斉藤さんの胸中を思うと、こちらのほうがこみ上げてくるものがあります。
  その斉藤さんでも、唯一涙を見せたことがありました。
  従業員への説明会でした。
  斉藤さんと管理担当の女性社員、そして私が工場の職員休憩室で、業務終了
  後廃業の説明と従業員に対する今後対応を説明しました。
  実務的な退社手続きの説明は女性に任せて、斉藤さんは社員に訥々と語り始
  めました。
  どうやら社員の皆さんは今日の説明会がなんの目的なのか、おおよそ気づい
  ていたようです。斎藤さんの言葉にすすり泣きが聞こえてきました。さすが
  の斉藤さんも涙声です。
  しかし、給与の遅配欠配がなく、退職金も規定どおり支払われる内容に、誰
  一人異議を唱える社員はいません。数度このような場面を経験してきました
  が、社長と社員の信頼関係が一番解る場面です。
  老朽化した小さな工場ですが、隅々まで掃除が行き届き、清潔感に溢れた佇
  まいが印象的です。まるで斎藤さんの人柄を示すかのように――――。
 
 
  4、長年の誠実な経営と人間関係が再起への道に
 
  廃業への作業は順調に進みました。
  買い掛け先も支払いに不安を訴えることもなく、入出金も計画どおりです。
  そんなある日、引継ぎ先の佐々木社長から私に電話がありました。相談した
  いことがあるというのです。なにかなと思いながら佐々木さんの会社に伺う
  と、こう仰いました。
  「斉藤さんに聞いてもはっきりしたことを聞けないのですが、自宅はどうな
  るのですか?」私は、「まだ時間的には余裕があるものの、協力者が現れな
  ければいずれは売却せざる得ない」ことをお話ししました。
  「協力者?どういう意味ですか」と、佐々木さんは聞いてきます。
  「つまりどなたかに斉藤さんの自宅を買い取っていただき、斉藤さんに貸与
  できればいいのですが」と、お話しすると、佐々木さんは「幾らぐらいでし
  ょうかね?」と尋ねてきました。
  「1700万程度でしょうか」
  すると佐々木さんは、「資金が調達できるのであれば、私が買い取って斉藤
  さんに貸してもいいですよ」と、提案してくれたのです。
  不動産の購入は投資です。けれど、斉藤さんが借りてくれるのが分かってい
  るのですから、ローン返済と家賃収入とのバランスがとれていれば、佐々木
  さんも損はしません。
  「先々、斉藤さんのご子息にでも買い取ってもらえばいいですよね」と、佐
  々木さんは言ってくれたのです。
  これで斎藤さんのご自宅についても、一気に打開策がみえてきました。きっ
  と斉藤さんご自身は、佐々木さんにそこまで甘えられないと、お願いするの
  を躊躇っていたのでしょう。
 
  ここで私はもうひとつの課題――、斉藤さんのこれからの仕事について、佐
  々木さんに相談することを決めました。
  このままでは斉藤さんは、仕事をなくして年金生活ということになります。
  一方、斉藤さんの会社から40社分の仕事を引き継ぐ佐々木さんの会社では、
  人手は足りているのでしょうか?
  私が訊ねると、佐々木さんはいいました。
  「小さくても40社ですから現状のマンパワーでは無理です。新たなスタッフ
  を雇うことを考えています」
  そこで私は、佐々木さんの会社の中に斉藤さんが在籍する為の、小さな会社
  を佐々木さんが代表者で新たに登記してもらえませんか?とお願いしてみま
  した。
  つまりこの40社には、「事情があって斉藤さんの会社は廃業になり、できれ
  ば佐々木さんの会社に引継ぎをさせて欲しい」とお願いする訳ですが、「実
  務は新たな会社が受注して今までどおり斉藤さんが窓口になり、佐々木さん
  の会社が製作を請負ます」と提案したらどうかと考えたからです。
  それができればお客様はより安心し、斉藤さんも収入の道が開けると思うの
  ですが、と。
  「そうかその手があったか!」
  佐々木さんは膝を打ってすぐに賛成してくれました。
  次の3者の打ち合わせでこのことを提案すると、さすがの斉藤さんも笑顔で
  いっぱいでした。70歳を前にしてもまだまだ元気一杯、やる気マンマンの斎
  藤さんです。佐々木さんの下でも、いい仕事を続けてくれるはずです。
 
  こうして斎藤さんは、長年の誠実な経営と人間関係から、再起への道を切り
  開くことができました。
  廃業からの再起は簡単なことではありません。
  しかし現実に目を背け、ソフトランディングのタイミングを逃してX-DAYを
  迎えることは賢い選択とはいえないのです。
 
  次号12号は、このテーマでの最終号となります。
  <中小企業のこれから>をテーマにお話していこうと思います。

 


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