事業再生の第1ステップは、出血を止めキャッシュを回すことです。次に、事業価値を回復し経営の正常化を図ることにあります。すなわち利益を生み出せる体制を構築することですが、利益を生み出す方法は、売上を上げるかコストを下げるか二つの方法しか有り得ません。
とは言え、「失われた20年」と揶揄されるような今日の複雑な経済環境にあって、利益の創出は今までの経験的経営手法だけでは難しい状況にあります。急速に「変化する環境」を先読みしていくことが求められますが、中小企業においては豊富なスタッフがいる訳ではありません。社長自らが取組まなければならない分野です。
そこで、財務三表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロ−計算書)を読みこむことを提案します。中小企業の社長にとって、決算書や試算表は税務申告か銀行に提出する書類ぐらいにしか考えていない方が多いようです。また、営業や技術開発などは得意ですが、どうも財務は苦手と言う方も少なくありません。以前、支援先の社長に「先月は売上が下がったようですがどうでした。」と聞いたところ、社長は「いやいや、大丈夫。先月は借入ができたので黒字でした。ハハハ・・・」「エツ!・・・¢£&☆$#」冗談ではなく実話なのです。
試算表(決算書)は専門的かつ複雑と思って避けておられる経営者が多いのですが、実はル−ルに基づきシンプルに構成されています。試算表は「数字」を読むのではなく「変化」を読むものと考えます。
前月や前年同期に比べ数値がどう変わったか。社長の経営判断や決断がどのような数値で現れ、それがどのように事業結果に反映されたのか、等を見ることが重要です。すなわち、試算表は社長の通信簿と言えるのです。
試算表が出来上がる仕組みやプロセスを知ることも多少は必要ですが、社長が伝票を起こす訳ではありません。いくつかの数値の変化を読み取り、そこから見出された課題をどのように次の経営に反映せることができるかが重要と考えます。
社長が培ってきた貴重な経験と勘に、試算表から読み取るデータを加えては如何でしょうか。
先日、日経新聞に日本を代表するような大企業が、経営戦略の重要課題に「CCC」と言う経営指標を掲げているとの記事が載っていました。「CCC(キャッシュフロ−・コンバ−ジョン・サイクル)」とは売掛金と在庫の回転日数から買掛金の回転日数を差し引いた日数を差し、この日数をより短縮することを目標に掲げているのです。「入金を早め、支払を遅らせる」。
まさに、日頃から唱える「営業キャッシュフロ−」の改善活動であり、超大手と言えども手元キャッシュを厚くすることを経営の重要課題としているようです。
さて、財務三表を読むことの重要性について話しました。とは言え馴染みづらい資料ではあります。そこで、中小企業の経営と言う目線から財務三表のどこをどのように読みとるのかについて考えます。
損益計算書(P/L)において重要な項目は「営業利益」一点であります。
営業利益でマイナスが続くようであれば、事業そのものの価値(継続の可否)の適否を判断する必要があります。すなわち、利益を生み出せる事業ではない。これ以上資本を投下しても回収が不能であると言えます。そのまま放置した場合、取り返しのつかない破綻に陥る可能性があります。
一方、再生途上においては当期利益がマイナスであることはあまり気にすべきではありません。再生期においてはリストラや資産のオフイバランス化による損失が発生し易いからです。
闇雲に高い売上目標を設定したり、従業員や経費の削減を行うべきではありません。営業利益が出ない理由は何か。損益分岐点表を活用し、自社のコストパフォ−マンスを見出し、どこに対策を講ずべきかを探ることから始めるべきです。
「事業が行き詰る」というのは売上が落ち、利益が出ないと言うことではありません。企業が破綻するのは資金繰りに行き詰った時です。すなわち「勘定合って銭足らず」。
支払より入金を早めること、すなわちキャッシュフロ−(C/F)における「タイムラグ」の存在をきちんと把握することです。
「利益と費用」、「収入と支出」の関係を良く理解してください。簡単なことですが、この違いをきちんと踏まえて経営に当たっている社長は実は少ないと感じます。
先に「借入が出来たから黒字だった」と言う社長の談話を載せましたが、借入金は損益計算書には計上されません。一方、減価償却費は資金繰り表には記載されません。
我々は、少なくとも3ヶ月先までのC/F見込を立てることを常に勧めています。金額は大雑把であって構いません。どんな支出がいつ発生するかを確認することが大切です。
また、年間におけるキャッシュの増減がどのような事業活動の結果によって生じたかを知るには2期のバランスシ−トを比較することによってそれを知ることが出来ます。
貸借対照表(B/S)を一言で言えば「お金の調達先と運用形態を示したもの」です。
貸借対照表の右側(貸方)はお金の調達手段を現しています。株主が出資してくれた資金は「資本金」、銀行から借りたお金は「負債」に計上されます。一方、左側(借方)はそれらのお金を運用してどのような資産を得てきたかを表しています。残っているお金は「預金」に、工場を取得すると「固定資産」に計上されます。左側が右側より多くなると事業活動によってより多くの利益を獲得できたと言えます。
企業活動は、まさしく右側の負債・資本を使って、その金額を上回る左側の資産を生み出す活動と言えます。
財務三表を読むことは難しいことではありません。前述のことが読み取れれば、自ずと事業もみえて参ります。
ひとつ大切なことは、月々の試算表が遅くとも翌月の15日までに社長の手元に届くことが必要です。時を逸した試算表などいくら読み込んでも手遅れです。そのためには、回議ル−ルや最終決裁者を決め、請求書等のデータが速やかに処理されることも重要です。