前略、
来年3月の『金融円滑化法』終了に伴い、様々なところで中小企業への影響が語られ、「倒産の嵐」といった偏った見方まででております。円滑化法の終了のみならず、銀行業務に対する金融庁の『検査マニュアル』の変更も大きく影響し、中小企業に対する金融環境が幅広く変化していくものと予想されます。
また、信用保証協会の保証も、一部を除き100%から80%に引下げられる共有制度に戻されることも決定されたようです。こうした変化の前兆かも知れませんが、代位弁済した債権の取立てや債務者対応にも変化が起きているとの報告も寄せられています。
何れにせよ、現在リスケジュールを行っている企業にとって大きな局面が目前に迫っていると言えます。セミナーではこれまでの情報を整理し、過去の中小企業を取り巻く金融環境の変化を確認しつつ自社が行うべき再生実務について、今回と次回の二回に亘り学んで行きたいと思います。
また、このした環境の変化は従業員の雇用問題にも少なからぬ影響を及ぼすと考えられます。平素は円満な関係と思いつつも、いざ解雇や雇用条件の引き下げとなりますと、日頃の小さな不満が一気に噴出し、訴訟に発展することも少なくありません。
残業時間、退職金の問題など金銭に関わることが多く、訴訟まで行かなくとも多くの場合、労働者優位の判断がなされ多額の負担を強いられると考えなければなりません。
そのためには、普段から従業員との間でル-ル化など合意形成を図ることが重要です。
記
第23回セミナ−を終えて
やはり、円滑化法が終了する来年3月以降の金融機関動向が気になるのか、多くの方が参加されました。
21年12月に「中小企業等金融円滑化法」が施行され、24年3月までに300万件を超える申込があり、およそ92%の企業に対しリスケジュ−ル等の支援が実行されました。
それ以前においても、一部でリスケジュ−ル等の支援は行われていましたが、債務者区分において「要管理先」とされた企業が対象でした。しかし、法の施行によって「実質破綻先」とされている企業までも対象とされたことから、円滑化法が「単なる延命装置」と酷評される要因ともなっていました
そのため、円滑化法が終了した場合、従前の債務者区分によって評価され、再建の目処が立たない(銀行にとっては多額の引当金を積まなければならない)「破綻懸念先」以下は、強制改修や破産処理等をされてしまうのではないかと言う恐怖が広がっている状況です。
こうした状況に対して、政府も本年4月に「円滑化法終了に伴う、経営支援の為の政策パッケ−ジ」なるものを公表しております。
その趣旨は、@事業プロセスのテンプレ−ト化の懸念、Aリスケジュ−ルの理由が販売不振であることの認識、B3つの視点(多様性の確保、フレキシビリティ-の発揮、長期の視点での確保)の重要性を掲げております。
「テンプレ−ト化の懸念@」は、実に金融機関の本質を見抜いた施策であると考えられます。
実は、円滑化法の施行は、金融機関の救済策でもあったのです。むしろ、そちらが主目的であったとも言えます。金融機関は「実質破綻懸念先」以下の債権には、ほぼ100%近い貸倒引当金を積まなければなりません。バブル崩壊以来、依然、経営が疲弊した状況にあり、そこに更なる引当金を積むことになれば、債務超過に陥る銀行は少なくありません。そこで、円滑化法では、一定の条件が整えば「不良債権と見なさなくて良い」と助け舟を出したのです。
その条件とは、一定の期間後に経営が改善され、妥当な借入金の返済が可能(正常先)となるような「経営改善計画」の提出がされていることです。しかし、その計画書の実態は、金融庁の検査に耐えうる銀行にとって都合の良い計画のものが多いと言われております。
円滑化法終了後においても、リスケジュ−ルは可能と考えられますが、この「合理的実現可能な経営改善計画」が不可欠であります。行政は、銀行が計画書ありき(テンプレ−ト化)で目先を誤魔化すことを懸念しているのです。さらに、あえて現状の危機を「販売不振であることの認識A」としているのは、計画が右肩上がり売上計画によって改善されたかのように見せかけることに歯止めを掛けているのです。
確かに、法施行後の22年以降においては、明らかに企業の倒産件数は減少し続けておりますが、倒産原因を見ますと、83%が「販売不振」となっており、資産デフレによる資金繰りの悪化が主因であった施行前とは明らかに異なってきていると言えます。また、倒産件数においても製造業が建設業を抜きトップと躍り出てきたことは、難しい現状を現していると言えます。
また、信用保証協会においても、円滑化法の終了に先立ち責任共有制度が復活されました。代位弁済債権についても担保物権の早期処分など回収姿勢が厳しくなってきたとの情報があります。金融機関にとっては、円滑化法終了に伴う引当金の積み増し、責任共有制によるリスク負担など従来にも増して融資に対し慎重にならざるを得なくなると考えます。
8月のセミナ−では、今回の問題について、より具体的に検証を進める予定であります。