バブル崩壊後、本格的な事業再生の必要性が叫ばれ10年以上が経過しました。
私達実務者は事業主の皆さんと、事業・雇用を守るために日々戦ってまいりました。
記
※ジャーナリストが見てきた事業再生10年とこれから
・フランスと日本の連帯保証制度の比較
・江戸時代の連借の名残
・ターンアラウンダー黎明期〜時代のヒーローたち
・日本の倒産法制の未熟さ
・「敗者復活アリ」の国づくり、等々
ゲストスピーカー:神山典士 先生 (http://www.the-bazaar.net/index.htm)
略歴
84年信州大学人文学部心理学科を卒業。ノンフィクション作家として1996年(平成8年)、『ライオンの夢』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞している。
※事業再生の現場から
代表取締役:川原愼一
85年に締結された「プラザ合意」を契機として、日本は空前の金余り状態(バブル経済)となりましたが、90年の「不動産融資総量規制」の施行により一気にバブル経済が崩壊し、「失われた10年」と揶揄されるデフレ経済へと突入いたしました。
しかし、こうした事態に政府は何ら抜本的対策を講ずることが出来ず、「公共性」と言う建前のもとに、大企業や銀行に対しては多額の公的資金をつぎ込み続けました。結果から見ると、それはいたずらに延命策を図ったに過ぎず、97年には過剰な不良債権により北海道拓殖銀行や長信銀が破綻し、また株価下落による損失補填事件によって山一證券など多くの証券会社が廃業に追い込まれました。
対照的にアメリカでは、70年代の深刻な不況に直面する最中で、78年にはいち早く破綻企業の再建を促進する改正連邦破産法、いわゆるチャプター7、チャプター11が誕生しました。アカデミズム内においても、事業再生のための金融・財務並びにマネジメントなどの専門知識を習得するターン・アラウンド・マネジメントコースが創設され、多くのTRマネ−ジャ−を排出し企業の再建を実現してきました。
日本においては、再建型の破産法制等(サービサー法や民事再生法)が整備され始めたのは、やっと90年代末期になってからのこと。バブル経済が崩壊してから10年間以上も、中小企業経営者や一般債務者は旧態依然とした破産法制の中でもがき続けなければならなかったのです。資産デフレ状況からの脱却スキームを持たない弁護士や税理士等が事業再生に当たることが多かったことも、多くの中小企業や個人が破産に追い込まれる一つの要因でもありました。
そうした中、日本においても不良債権という「ドブ」に積極的に手を突っ込んで事業の再生を目指す実務家集団が誕生してきました。敗者復活を掛ける事業者の真のパートナーととしての「ターン・アラウンダー」の存在こそが、日本経済の再生に不可欠な「時代のヒーロー」と言えます。
また別の視点から見れば、日本は長い間、霞ヶ関を頂点とする巨大な正三角形の官僚型社会主義体制が敷かれてきました。間接税、源泉税、住宅ローン、生命保険等、あらゆる形で個人の蓄財は一度霞が関に吸い上げられ、そこから地方自治体や大企業、さらに大護送船団を組んでいた金融機関に投下されていきました。そのシステムが高度成長、インフレ経済を支えてきたことも事実であります。
しかし、この三角形を維持するのは困難な時代となりました。95年に起こったウインドウズショックは情報流通の面でのビックバンを引き起し、人・モノ・カネが国境を越えてダイナミックに移動する社会となりました。大手銀行の経営破綻に見るように金融機関の大護送船団は崩れ、郵政民営化が実施され、年金制度も制度疲労を起こしています。人口増、インフレ経済を基調としたこれまでの国づくりは終焉し、人口減、デフレ経済を基調とした新しい国づくりのシステムが模索されています。
これからの日本は、巨大な三角形型社会から小さな円が無数に集まる社会になる。国づくりのシステムが変化したのですから、企業の再建方法にも変化があって然るべきです。
従来の慣習や法にとらわれず、個々の実態や実務に即した事業の再建に取組むターン・アラウンドマネージャーの存在が極めて重要になりつつあると考えています。