前略、
銀行は、金融市場からの信頼を維持するために、常に自己資本比率の向上など財務の健全化に最大限の労力を費やしております。そのため不良化した貸出債権については、債権回収専門会社(サ−ビサ−)に売却するなどの方法によって資産の圧縮や健全化策を講じております。依然として不透明な欧州の債務問題もあり、世界的に金融機関の財務体質の強化が求められており、邦銀においてもこうした厳しい要求に対処するため、大手行を中心に年度当初より不良債権の処理が加速しつつあるようです。
サ−ビサ−が債権回収を進めるに当たっての着眼点は、債務者あるいは連帯保証人が所有する不動産であります。必ずしも競売などされるとは限りませんが、事業に不可欠な不動産や自宅である場合、どうしても交渉において不利な立場に置かれてしまいます。
現在所有する不動産の権利関係がどのような状況にあるのか、不動産の価値と担保の額がどのような関係にあるのか、あるいは設定されている権利がどこまで及ぶのかなど不動産に対する正し知識と理解をもった上で債権者対策を講じなければなりません。
今回のセミナ−では、事業再生に伴い生ずる不動産に関わる問題点についてお話をさせていただきます。
記
不動産は事業の観点から見た場合、大きな二つの要素があります。
ひとつは、事業の遂行に必要な店舗、工場などの施設としての機能、二つ目は、資金調達のための担保としての役割があります。
不動産は「登記」と言う手段を通してその権利関係を公示することによって、取引の安全性と円滑化を確保しています。
登記簿(登記事項証明書)は、「表示部」と「権利部」に関する登記が行われています。「表示部」とは不動産の所在地、地目、面積、構造など土地建物の物理的状況が登記されています。
「権利部」については「甲区」と「乙区」に別れ、甲区は当該不動産の所有権者、取得年月日、登記原因など「所有権」に関する事項が登記され、当該不動産の履歴も把握できます。その他に差押、仮処分、買戻しなど将来所有権が移転する可能性がある権利についても甲区に表示されます。
乙区は、根抵当権、質権、用益権など所有権以外の権利が登記されます。これらの権利は複数の登記が可能なことから、登記された「順位」が極めて重要な要素です。原因が生じた(契約)日ではなく、登記簿に受付された日の順番で権利の優先順位が決まります。
金融機関などから借入を行った場合、その返済を確保するために債務者等が所有する不動産を担保として提供させることが日本の商習慣となっており、不動産担保融資として広く使われてきました。一方、担保として提供していない所有不動産においても、返済が滞るような場合「差押」と言う手法で担保化されることがあります。
そうしたことから、所有する不動産の状況を常に把握しておくことが重要です。
ひとつは、登記された債務額と不動産の時価(簿価ではない)の関係を把握することです。根抵当権が設定されている借入額より不動産の時価が高い場合、「剰余」があると言います。この場合、この不動産を担保に追加で借入が可能と言う側面と、他の債権者が剰余分に差押を掛けてくる可能性があると言うことです。
一方、借入金額が不動産の時価より多い場合は、「無剰余」と言い、債権者は当該不動産を売却しても全額回収できない状況であります。よって他の債権者が競売を申し立てしても配分額が見込めないので競売は却下されるため、ある面、担保権者との関係が円滑であれば保全されている状況と言えます。
土地は社長、建物は奥様所有の不動産が競売に掛けられました。さて、次の場合どのようになるでしょうか。
A奥様は保証人になっているか否か。
B建物が売却された場合、奥様に残される権利はあるのか。